斯道文庫の存在を知ったのは、中学か高校に通っていたときだと記憶しています。資料を探すために慶応の三田図書館に行った時に、職員の方が私の名前を見て「太賀吉さんが寄贈してくださった"斯道文庫"のことはご存知ですか?」と声をかけてくださいました。
幼いころから歴史には興味を持っていましたが、文献を理解できるほどの知識はなく、価値もよくはわかりませんでした。しかし、年を経て、斯道文庫の意義も、収蔵されている文献や資料の価値も少しずつながら理解できてきたように感じます。
今回、斯道文庫についての記事がホームページに掲載され、文の寄稿を頼まれた機会にあたって、あらためて斯道文庫について思いを巡らせてみました。
祖父の太賀吉は、若くして父親を亡くしています。当時は「家を守る」ために長子の教育がとくに重要視されていたためでしょう、祖父は学習院中等科1年のときに初代の太吉に筑豊に呼び戻され、河村幹雄先生のもとで教育を受けました。そして、河村先生と出会ったことで、学問のために文献を集め文庫を設立することの、お金の遣い途としての意義を感じたのだろうと思います。
当時の麻生家の人間は日本的な教育を受けていたはずです。祖父も、もちろんそうだったでしょう。しかしながら、祖父は横浜正金銀行のロンドン支店で支配人を務めた加納久朗氏の妹を母に持ち、ロンドン滞在中に吉田 茂駐英大使(当時)の三女・和子と知り合って結婚していますから、少なからずウェスタナイズされた思想や思考にも触れていたかもしれません。そのなかでハイカラで一風変わった西洋のことを知る前に、まずはオーソドックスである東洋のことを学ぶべきという思い入れがあったのではないでしょうか。洋の東西あるなかであえて東洋を選んだということについては、とても興味をそそられます。
現在は西洋のものがオーソドックスとなり、東洋のものがむしろ目新しくなるなか、斯道文庫はこれからも重要な役割を担っていくことになるのではないでしょうか。
麻生グループには、いまも祖父・太賀吉の思い入れや、思い描いていた教育のスタイルの一端が残っています。文化と関わっていく方法や内容は時代に合わせて変えていく必要が高いですが、斯道文庫が創設されたときの思想を忘れず、今後も文化貢献活動を続けていければと思っています。(談)
慶應義塾大学付属研究所「斯道文庫」
住所:東京都港区三田2-15-45 慶應義塾大学三田キャンパス内
電話:03-5427-1582
閲覧資格:専門研究者(原則として大学院生以上、大学院生は指導教授の紹介状が必要)
※閲覧手続きや閲覧時間などについては、斯道文庫のサイトでご確認ください。
http://www.sido.keio.ac.jp