冷蔵庫や洗濯機、照明、パソコンにいたるまでさまざまな電気製品が広く生活に取り入れられるようになった現在、電気は欠かすことのできないエネルギーとなっています。しかし、日本ではじめての電灯が点いてから、わずか120年ほどしか経っていません。
日本初の電灯が点いたのは明治19（1886）年のことでした。東京に75灯の電灯が設置されたのです。九州では、明治24（1891）年に熊本電灯が、明治26（1893）年に長崎電灯が開業し、電灯が点されるようになりました。福岡県下では、少し遅れて、明治30（1897）年に博多電灯が創立されています。現在では、電気の供給のほとんどは、九州電力、関西電力、北海道電力など電力会社10社によって行われていますが、かつては数多くの中小電力会社が存在し、地域に根ざした電気事業を展開していたのです。
筑豊でも、明治30年代には炭鉱内の照明、通気や排水、ワイヤーを巻き上げる機械を動かすために電気を利用するようになりました。とはいえ、あくまでも炭鉱事業のための自家発電にすぎません。時流にのって麻生の炭鉱でも電灯を使い始めましたが、当初は電力を他社から買っていました。
そのような状況にあって、太吉は「石炭を使って電気を起こすのだから、自前の石炭を燃やして発電してはどうか。そうすれば高い電気代を払わずにすむ」と、嘉穂電灯の設立を決意。さらに、自社の発展と同時に筑豊の人々の暮らしにも思いを馳せた太吉は「せっかく発電するのなら、ヤマだけで使うのではなく、近隣の町にも電灯の花を咲かせよう」と提案します。
明治43（1910）年、嘉穂電灯は、100キロワットの火力発電機1台を稼動させ、営業を開始しました。太吉の願いどおり、炭鉱に電気を供給すると同時に、飯塚から立岩、二瀬、菰田地区の一般家庭1500戸に送電をはじめます。翌年の明治44（1911）年には発電機を増設し、穂波村をはじめ、近隣の1町6村に送電域を広げていきました。
嘉穂電灯は昭和5（1930）年に社名を昭和電灯に変更し、昭和15（1940）年に当時九州最大の電力会社であった九州水力電気に吸収合併されるまで、筑豊の一般家庭に電気を送り、住民の生活を支え続けたのです。
資料提供／九州電力
