麻生グループ
「麻生泰のメッセージ」を更新しました
神様に一番近い仕事 ��
私は病院の経営者としての思いをこれまで何度か書きましたが、今回は患者としての経験談を少し披露したいと思います。
英国での留学時代にフランスで大きな交通事故を起こしました。パリからロンドンへの帰り道、カレー市の港に近づいたあたりで高速道路の地面が凍っているのに気づかず、スピードを出しスリップして大きな樹木に正面衝突をしました。完全に脳振盪を起こし意識がない中、通りがかりのトラックの運転手さんが救急車を手配してくれたお陰で、病院に運ばれ救われたのです。右腕を5カ所骨折、右の膝下を5カ所骨折、右大腿骨を骨折、右腰と右肩を外しました。
目が覚めたら手術室に居りフランス語で声をかけられたのを覚えています。拙いフランス語で皆さんに深く感謝の思いを伝え、ロンドンの連絡先を伝えたのですが、医師、看護師のみなさんは患者が思ったより元気そうなので非常に嬉しそうに声をかけてくださったのを覚えています。
そのローカル病院に1か月入院しましたが、実に温かい対応をしてくれました。母も東京から飛んできてくれました。そして1か月経ってフランス語が出来ない私はストレッチャーのまま飛行機でロンドンに送って貰いました。
そのままミドルセックス病院に転院しました。私が吉田茂の孫だという事で、サー・ウィンストン・チャーチルの主治医で欧州整形外科学会会長という医師が担当してくれました。フランスのローカル病院の医師は50歳くらいの実に誠実な医師であったのですが、私はこのイギリスの医師がどうにも好きになれないタイプでした。何やら、自分は偉いという上から目線が嫌いでしたし、その主治医の影響かこのフロアー全体の雰囲気はクールというか温かさを感じませんでした。手の5本の金具はこの医師が外す手術をしてくれましたが、ダメージがひどかった、右足の手術はどうしてもあのフランスの田舎町に戻って手術をしてもらいたくて、著名な医師に断りを言い、現場に戻る気持ちを伝えると、名医の方は非常に憤慨されました。
本心、あの事故現場に近い地方の病院のスタッフの人たちに足の金具多数を外してもらう手術を受け、その結果、足が不自由になったとしても納得できると思ったし、逆にこの“大先生”の手術を受けて足が不自由になったら生涯悔やむこと間違いなしと思ったのです。それくらい、患者の気持ちはデリケートで傷つきやすいのです。
足に金具を付けたまま、松葉杖でロンドンからパリへ渡り、パリからノルマンディーまで汽車に乗って事故現場の病院に入りました。みんなが大歓迎してくれ、私もこの先生に金具の全部を外して貰えると思うとホッとした気持ちで再入院したのです。
あれから55年、今でもこうして元気にゴルフやお散歩を楽しめる身を感謝しています。病んでいる患者にとっての医療スタッフの対応マナー、まごころは実にデリケートに影響します。そして、医療人が神様に一番近い職の一つであることを患者として体験しました。
≪次号につづく≫
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